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魚と人面、石と風船 ~形態学的怪獣論23 [怪獣論・怪獣学D]

それまでの怪獣には無く、成田デザイン・高山造型になってはじめてあらわれた特徴のひとつに、「タラコ唇」がある。ガラモン、ラゴン、人工生命M1号など、人間型の怪獣に付与された大きな唇。ともすればお笑いになってしまうようなこの大きな唇は、特に高山氏の周到な造型によって救われている。

従来の怪獣のイメージを大きく逸脱しながらも、緊張感を失わず、新たなパターンの開拓に成功した。ガラモンはコチ(或いはオコゼ)、ラゴンはまさに半魚人であり、このタラコ唇によって魚の人面への応用を可能にしたと言える。

M1号の唇は単なるループではなく、湾曲、角度などしなやかな弓のように造られている。好悪別れるデザインではあろうが、この唇だけでも一見の価値がある。本来怪獣とは、古代であれ現代であれ、少なくとも何らかの「生物」がそのモデルとなっている。

この不文律を積極的に犯し始めたのが成田氏のデザインであり、抽象芸術の手法を取り入れたケムール人、日用品からヒントを得たカネゴンと同じ発想法の延長上にあるのが、ゴルゴスとバルンガである。ゴルゴスは初の岩石怪獣である。

岩石そのものが特殊な状態なのか、何者かが岩石に取り付いたのかは厳密にはわからない。いずれにせよ、岩石そのものに手足が生え、目を開き口をあけるというのは画期的だった。さすがに成田氏もデザインには苦慮し、最終デザインに至るまでにさまざまな試みを経ている。

造型された着ぐるみも極めて質感をよくとらえた出来映えだが、完全な石であっては可動部がなくてアクションができない。ゴルゴスの腹面が何もないノッペラな状態なのは、ある意味で仕方の無いことなのだ。岩石怪獣は、この後、より岩石らしいアンノンなどに継承されていく。

ここに怪獣デザインは、鉱物という領域を開拓したのである。鉱物といえども自然界に存在する物質の一種であるが、怪獣デザインはここにとどまらず、自然界には存在しない人造物(工業製品や日用品)にまで発想を求めて行った。風船というキーワードから生まれたバルンガは、その先駆である。

しかしさらにいえば、バルンガは風船というよりもただの球体に近く、この意味で、純粋な幾何学形態の先駆とも言える。もはや怪獣デザインにとって一切の制限は取り払われ、生物、無生物、自然、非自然、この世に存在するあらゆる形態が怪獣に変わり得ることを、「ウルトラQ」は証明したのである。

正統派の怪獣を軸に、様々な可能性をもつユニークな怪獣が好対照を見せながら展開する絢爛たるウルトラワールド。当時として世界にも類を見ない独自の世界を築き上げたこの番組は、40余年を経た今なお、無限のヒントをはらんだアイデアの宝庫である。 (おわり)


★★★★★★★★★★★★
バルンガという怪獣は、どのように退治したらよいかまるで見当が付かないし、ゴルゴスも同様だ。ゴルゴスは岩石のような形をした生物と見えれば殺せるだろうが、バルンガはあらゆるエネルギーを吸収して巨大化する、まさに化け物である。もはや怪獣ではなく、ドラマに中でも言うが、ある種の「神」である。人間の手には負えないのだ。だから最後は、自然の力によって退治される形を取るのだが、もし奈良丸博士が十数年前にバルンガを見つけていなければ、退治する方法を見つける前に地球と人類は、巨大なバルンガにのみ込まれていたにちがいない。



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