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魅惑のシルエットを持つ宇宙人  ~形態学的怪獣論7 [怪獣論・怪獣学B]

「宇宙からの侵略」を掲げた時点で、ウルトラセブンは様々な知的生命体との戦いを運命づけられた。その形態は、常識的に考えれば「人間型」に限定される。だがデザイナー成田亨氏は単なる「人間の改変」にとどまらず、独自の面長の宇宙人をローテーションの中心に位置づけ、その谷間にあらん限りの創意工夫を試みた。

いわば「非人間型」のシルエットの投入が、敵役のバリエーションを一気に広げたのである。記念すべき第一話に「クール星人」を登場させたことこそ、従来の固定化した宇宙人像を打破してみせるという、高らかな宣言ではなかっただろうか。

怪獣デザインについて現在ほど考察が盛んでなかった頃、「全体像の外形から受けるイメージ」くらいの意味で、シルエットという言葉を使うことにする。フォルムが3次元的なイメージを持つのに対して、シルエットは2次元的なニュアンスが強い。

細部よりも全体として印象的なシルエットを有する形態は、忘れがたいのである。半世紀に近い怪獣デザイン史の中で、成田デザインが支持され続ける理由は、ユニークなそのシルエットにある。

これまでの考察からすると、「初めにシルエットありき」ではない。だが様々な発想の中から一つのデザインをまとめていく過程で、芸術家としてのセンスが自ずと全体のシルエットを美しく、個性的に整えるのであろう。真に独創的な意匠は、「複雑」を嫌う。洗練された美しさは、「時間」を止める。成田デザインの人気は、怪獣が存在する限り不滅に違いない。

クール星人、ヴィラ星人、チブル星人という第1クールを代表する「非人間型」操演怪獣が、それぞれ1話、5話、9話に登場している事実。これは多彩なシルエットによって、敵役のイメージのマンネリ化を防ぐという期待に、彼らは見事に答えてみせたのではないだろうか。

クール星人のモチーフは「ダニ」であるという。くしくも、「人類なんて我々から見れば昆虫のようなものだ」というセリフが劇中にあるが、最も地味な昆虫であるダニが、どのような過程を経ればこのような優れたデザインに昇華されるのか。

極めてユニークな形態だが、生物特有の美を感じさせるのは、そのシルエットがふたつの六角形でできているからではあるまいか。細部のデザインも相当工夫されているが、全体の印象がすっきりしているのは、一見して単純な形態に戻すことができるからではないだろうか。

忘れがたい印象を残すという点では、ヴィラ星人はその頂点のひとつである。こちらのモチーフはウチワエビであり、その意味では理解しやすいが、言うまでもなく、誰がデザインしてもウチワエビがヴィラ星人になることはない。

両者の間には、常人には越すに越されぬ大河のごとき差が、厳然として横たわっていた。完成されたこの形態には五角形と台形、それをつなぐ直線という単純な要素から成立していることが判る。

(ちなみに、花弁、手、ヒトデなど、生物の形態には五角形が多く現れる。これに対し無機物は、四角形、六角形などが基本形となっているという。いずれにせよ、自然界の「美」は、こうしたきわめて基本的な形態によって構成されていると言えるかもしれない)

長らくタコの一種かと思っていたチブル星人は、巨大な脳に貝殻の形態を導入してアレンジしたものだという。楕円から伸びる三本の線がシルエットの基本。頭部の表面には陥没が刻まれ、端正な造型とも相まって、どことなく知性を感じさせる出来映えである。

この楕円のシルエットは第2クールでブラコ星人に引き継がれ、やがて顔が身体の真ん中に位置する変形怪獣群(タッコングなど)の母体となっていく。彼らは決して強者ではなく、その操作上の制約のためにセブンと大格闘したわけでもない。が、今なお鮮烈な印象を失わないのは、その冒険的な形態のすばらしさゆえである。  (つづく)


★★★★★★★★★★★★
単純化というのは、なかなか文章で書くと難解かもしれない。これでも記事を書く際にはよく文章を噛み砕き、解りやすい内容にして書くことにしているが、今回はそれが簡単ではなかった。
単純化は図解するとわかりやすいのだが、それができないので、できる限り解りやすく表現してみると、

クール星人は柱時計のようなイメージになる。五角形の柱時計に五角形の振子が付いているイメージだ。ヴィラ星人は江戸時代の高札(法度・禁令、犯罪人の罪状などを記し、一般に告示するために町辻や広場などに高く掲げた板の札)のようなイメージ。五角形の看板に足が一本付いていて、一番下に重石があるイメージ。チブル星人は、3本足のタコのイメージになる。デザイナーは単純なものから形を起こして複雑化していき、最後に色を付けて出来上がりという感じなのだろうか。怪獣デザインは、感性の差が印象(忘れがたさ)の差を生むと言っても過言ではないかもしれない。



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タグ:成田亨 怪獣
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