SSブログ

宮内洋、ヒーロー一本道(5) 『快傑ズバット』その2 ~台本をもらうと、ワクワクすると同時にプレッシャーも感じた [宮内洋・1]

(前回からつづき)
『快傑ズバット』というとてもいい作品に出会って、良かったと思っている。わずか30分ドラマに過ぎないが、脚本が素晴らしい。32本と本数は少ないが、一話一話がすべて好きだ。その脚本を担当してくださったのが、天下の長坂秀佳先生。

以前『快傑ズバット』のLD(レーザーディスク)が発売される際に対談をさせていただいたが、そのときおっしゃったのが、『俺が全部書きたかったよ』だった。この上も無くうれしかった一言だ。確かにおっしゃる通り、32本中2本(第7話「わるい風だぜ 港町」と第12話「死刑執行十秒前」)が他の人の脚本だ。

でも宮内洋は、早川健という人間像を長坂脚本によって創り上げていたので、撮影現場でも私流にすべてを演じきった。だからこの2本だけ作家が違っていたとしても、すべて長坂流で演じていたことに違いはない。第10話「野球の敵を場外へ飛ばせ」に至っては、原作者の石ノ森章太郎先生も出演してくださった。

ズバットは全作品が好きだが、その中でも一番好きだったのは第15話「哀しき母の子守唄」である。台本を読んだ時に自分の目に涙があふれたのを、今でも憶えている。脚本がいいと、それ以上に良いものにしてやろうとプレッシャーもかかるもの。

この『快傑ズバット』に関しては、台本をもらう都度、ワクワクしながらもプレッシャーを感じたのも事実だった。この作品には必ず敵の用心棒との対決があった。次の対決はどんな相手か、どんな内容の対決か、こういったこともワクワクすると同時にプレッシャーのひとつだった。

普段街を歩いている時でも、電車に乗っている時でも、私は人様の観察を絶やしたことが無いくらいだ。自分が何かの役をいただいたときの参考にしていくのである。もし近くに見慣れぬ物体があれば触ってみて、それが何であるのか、どう使うのか考えてみるのだ。

そうやって「芸のタンス」にいっぱいコヤシをため込んでおくことが、役者には大切なことなのだ。「芸のタンス」からひっぱり出してきた芸には、流行おくれは無い。いつの時でもその持ち主の演技を助けてくれる、かけがえのない「衣装」なのだ。

敵の用心棒との対決シーンは、日活「渡り鳥シリーズ」の小林旭さんと宍戸錠さんとの対決をイメージしていた。「おまえさん、日本じゃあ2番目だ」こう言い切るためには、何事においてもすべて「日本一」にならなければいけない。

ただ32本で終わってしまったのだから、今のところは32の事だけが「日本一」ということになる。この32がいくつに増えようとも、「芸のタンス」にため込んだコヤシがある限り、いくつでも「日本一」を演ってやると思っている。

アクションで一番注意しなくてはならないことは、足場である。そのために私は、靴に神経を集中してきた。普通の時は普通のブーツ。アクションの時は、靴底がラジアルに切り込みのあるアクションブーツ。沼地や泥地および水の中等はバスケットシューズ。

いつも撮影現場には、三通りの靴が用意されていた、いや用意させていたのである。中でもラジアルシューズは自前で、他には無いものである。「キイハンター」の頃、千葉真一先輩が履いていたものを是非にとお願いして、同じものを作らせていただいたのである。

2足でかなり高価であったが、今の宮内洋のアクションを作り上げてくれたのだから値段は関係ない、それは「私の財産」である。このような役者の「財産」を、普通は教えないものだ。それを東映の千葉真一先輩は、レンズの位置とかブーツの事とか貴重な「財産」を惜しげもなく教えてくださったこと、本当にありがとうございました。心から感謝申し上げます。

アクションでは、「できる」をいう自信、確信が大切だ。役者は役を演じることが本業なので、アクションが苦手ならスタントマンに任せてしまえばいいのである。私はアクションが得意だったから、やったに過ぎない。

その代り、「アクションが出来る」ということも立派なウリになるので、私がアクションを演じる場面では、「宮内洋がやっている」ということがハッキリわかるような画面を撮影してもらった。ロングでアクション全体を撮っておいて、要所で顔をズームアップする。

これによってハッキリ自分だということが分かる上に、画面に変化が付いてよりカッコいいアクションシーンになったのである。レンズのトリックを使うことによって、アクションはより引き立つのだ。若い人でアクションスターを志す人は、是非『快傑ズバット』を見てほしい。

そこで宮内洋がカメラのトリックをどう使いこなしてカッコイイアクションシーンを撮っているか。それを学ぶことで、得るものは多いはずだ。

早川健は人に接する時、人様のお宅にお邪魔する時、テンガロンハットを取り、手袋をぬぐ。握手する時も当然、手袋を取る。特別な宗教心はないが、神殿などの前では目礼する。このような仕草を、観ているちびっこ達に少しでも解ってほしく思う。「ヒーロー番組は教育番組」という要因のひとつが、こういったところにあるのだから。 (おわり)


★★★★★★★★★★★★
ズバットの撮影初日、監督以下初めてのジャンルものだけにどうなるか分からず緊張していたが、いよいよ早川健が大見栄(おおみえ)を切るシーンにかかると、みんな『笑っちゃいかんぞ、笑っちゃいかんぞ』と必死だったそうだ。で、本番が回り出すとスタッフの誰かが笑いをこらえだす。

つられて皆も笑いをこらえる。そしてOKがでた。皆の耐えていた笑いが爆発すると、この笑いに不安になった宮内氏が『平山さん、やり過ぎかなぁ』と。平山氏は、『ううん、いいよ、よかったよ。もっとやってイイよ!』宮内氏に激励の言葉をかけてから、スタッフに言ったという。

『カッコよくなるのも、こっけいになるのも作る側の思い次第だ。これは圧倒的にカッコよくなる番組だ。作る側がカッコイイと思いこんで撮れば、最高の作品になるんだ!』この言葉、平山さんの作品に賭ける思いが伝わるなぁ。ヒーローはカッコ良くなくちゃいけないという宮内氏と平山氏のふたりの思いが相乗効果となって、ここにニューヒーローは誕生した!

『快傑ズバット』はこの当時は系列局を持たないテレビ東京(当時東京12チャンネル)の作品だったが、局始まって以来の高視聴率16パーセントを記録し順調と思われた矢先、関連玩具の売れ行き不振などを理由にスポンサーが降板したため、打ち切りになってしまったという。

テレビ東京が系列局を持たなかったためにリアルタイムで見られなかった地域が多く、それが玩具の売れ行き不振に影響したとも言われる。せっかく長坂秀佳氏という「キカイダー01」を書いた作家をメイン脚本家に迎えながら、これから面白くなるという矢先の打ち切り。非常に残念であった。



スポンサーリンク



nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:テレビ

nice! 0

コメント 2

あきみ

つい数日前に、大阪日本橋の宮内洋さんの
イベントに行ってきて、ズバットの早川健
を調べているうちに、たどり着きました!

楽しかったです(⌒‐⌒)

by あきみ (2017-04-12 00:55) 

レインボーゴブリンズ

あきみさん。ご訪問いただき、ありがとうございました。ズバットの魅力は、宮内洋さんが演じないと出せないものですね!
by レインボーゴブリンズ (2017-12-09 16:32) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました