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実相寺監督と怪獣の声の作り方(2) [実相寺監督が語るウルトラ1]

(前回からつづき)
小森氏;
「素材に使った音源は、特撮ものの場合、わざとその素材感を活かしたとき以外は、何から加工したり変質させたりしたか、おそらく視聴者には分からないでしょう。まぁ喜劇かパロディなら、
巨大な怪獣からブタの鳴き声が出ても面白いでしょうけど、ウルトラシリーズでそんなことをしたら、夢をぶち壊しちゃいますからね」

小森さんによれば、あまり特殊な音を作る手の内を明かしたくはないそうだが、実際にいる動物の声を加工変質させて使うことは、結構あるそうだ。人間の声を素材にしたこともかなりあったらしいが、その際には声を筒や箱に共鳴させたものを加工したことが多かったという。動物の声と人間の声を合成させて使ったことも、あったそうだ。

小森氏;
「とにかく音は、作っている過程をおろそかにしない事が大切ですね。自分の口を長い筒にあてて、うなったり、叫んだりして、筒の中で反響して変質する音を録る作業をする時も、予期せぬ偶然や計算外の出来事をとらえる姿勢が、肝心なんです。

音は結果を計算し得ないことが多いから、いろいろ試してみることが必要ですね。今例に出した筒のことでも、長さ、口径、素材で、全部響きが違う。唇の開き方、声の震わせ方ひとつで、全然ちがうものが出てくる。

ウルトラシリーズをやっている時は、街中を歩いているときでも、耳に飛び込んでくる音には、いつも注意を払っていましたね。これから怪獣の声を作ってみようかなという人には、身の回りにあるすべてが素材に成り得るってことを言っておきたいですね。音響を志すってことについては、他に特別な勉強は何も無いです」

小森氏が明かしてくれたものとしては、楽器を使って素材となる音を作ったり、鉄工場で、さまざまな鉄くずを切断したり溶接したりしてもらい、素材音を作ったこともあったという。

小森氏;
「摩擦(まさつ)音を怪獣の声に使ったことは、多かったですよ。鉄板や石板、コンクリートなど、こするものもいろいろ変えてみるんです。監督の『恐怖の宇宙線』でしょう、先輩の人が子ガヴァドンの足音に、紙かガラスに太いマジック・インキがこすれる音を使ったのは。良い効果でしたよねぇ。『こする』というのはひょっとすると、特撮の音の基本かもしれませんね!」

テレビの特撮シリーズの場合、音響効果担当者が一番大変な時は、スケジュールが押してきた時だそうだ。

小森氏;
「特撮は撮影がたいへんだから、ダビングの時に合成が間に合わないことがあるでしょう。そのとき、音のきっかけをデルマ(*)で書いたもので音付けをしたりすると、ズレちゃったりしてね。
(*)デルマトグラフという特殊な鉛筆のこと

それから、光線を発射する場面で、実際に画面を見られずに、口で説明を聞いた感じだけで音を作ってしまうこともあったんです。ダビングも終わって、最初のプリントで完成したものを見ると、画の感じと音のイメージがピッタリしてない、なんてこともありました。この画なら、もっとちがう音を付けたのに!って文句を言ったこともありましたよ」

特撮では、とにかく画が挙がらなければというのが優先してしまうため、音の作業にしわ寄せが行ってしまうのだ。スタッフの中で割を食うのは、いつも音響関係の人達だった。

実相寺監督;
「特撮ものをやっていて、当時はバカにしていたものが、十数年経つと先端のフォルムだったりすることがある。ウルトラマンのビートル機はずんぐりしていて、当時の空想ものの中では少しバカにされていた。でもスペースシャトルが出現すると、『ああ、デザイナーには先見の明があったんだなぁ!』って、やっとわかる」

小森氏;
「音でもそうなんです。ウルトラシリーズのいろんな本部の電話の音なんかは、『頼りない囁き(ささやき)のようだ』って批判されていたんです。当時はけたたましいダイヤル式が、全盛の時代でしたからね。でも20数年たってみると、本部で鳴っていた音が時代を先取りしていたってことが判るでしょう。こんな事ひとつ取り上げてみても、ウルトラシリーズが長続きして、皆に見られている理由があると思いますね」

まったくその通りだと思う。ウルトラマンをはじめとする当時の円谷プロが作り上げたものが、30年以上たった現在でも、ひろく世代を超えて親しまれていることの一端は、すべての部門に小森さんのような職人がいたからであろう。ウルトラの人気の秘密は、スタッフたちが自分のために夢を見ることに一生懸命だったから、それが子供たちのためでもあったということなのだろう。(おわり)


★★★★★★★★★★★★
このブログを書くにあたって、引用している資料の文章で分からない用語があると読んでいてもつまらないので、できるだけ調べて注釈するようにしている。今回は『デルマ』という用語の意味がよく分からないので、調べて注釈をした。
もう少し詳しく書くと、このデルマトグラフという鉛筆は、本来は皮などに書くために使われていたらしいが、映画のフィルムに直に書き込んだりするのに適しているようなので、映画業界ではよく使われていたようである。『フィルムに直に書き込む』とは、音楽やセリフなどをダビングする際に、その出だしの場所がわかるようにフィルムに印を付けたりするのだが、この印のことを『デルマ』と言っていた。今では、ビデオやデジタル映像になってしまったので、このデルマにお目にかかることはなくなってしまったそうである。



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