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「ウルトラマン」復活の兆し ~形態学的怪獣論45 [怪獣論・怪獣学F]

異種合体怪人の発想は、『仮面ライダーX』において「有名人+動物」という展開を見せる。形態的には『V3』時代がピークだったかと思われるものの、ここに至って一つのパターンが完成をみた。それは「名称」である。厳密に言えば、「語感のここちよさ」といえよう。

ヒトデヒットラー、カブトムシルパンなどは早口言葉のように唇に心地よい。呼称されやすい響きに満ちているのだ。この傾向は、『キカイダー』の怪人にも継承される。グリーンマンティス、カーマインスパイダーなどは、デザインや造型を超えて名称として記憶に残る。

それは番組の差別化にとって、大きな武器である。ある意味でこの「名称」は、「形態」に匹敵するインパクトを持つ重要な要素であり、いわば「個人情報」の先駆けである。こうした東映独自の怪人路線は、立派な「美」として確立されていった。

その系譜は、特撮番組苦境の時代にあっても戦隊シリーズに継承され、さまざまな力作・意欲作を輩出し今日に至っている。

『レオ』と共に終焉を迎えた第二期ウルトラシリーズは、やがて小学館の「コロコロコミック」に連載された『ザ・ウルトラマン』の人気に先導され、アニメ番組『ザ・ウルトラマン』を経て、昭和55年、『ウルトラマン80』として復活を果たした。この間5年。

ハリウッドの『スターウォーズ』をはじめとする巨費を投じたSF大作が記録的なヒットをし、一方、邦画でこれに対抗し得る唯一の手段とでもいうように、『宇宙戦艦ヤマト』を筆頭とするリアルSFアニメが熱烈に支持されていた。今日に続く『機動戦士ガンダム』も、この時期に誕生している。テレビでは熱血教師ものが高視聴率を上げ、『ウルトラマン80』の設定はその影響を受けている。

怪獣の出現理由を人間の心の闇に求め、学校を舞台に青春の揺れ動く心情と怪獣との関係を描破(びょうは;余すところなく、描きつくすこと)しようとした意欲は評価されるものの、開始1か月の怪獣群はすべて黒系統の単色・2脚・悪党ヅラで、没個性が著しかった。

物語全体の設定が怪獣の設定にカセをはめたとは思えないが、スタートダッシュをかける時期の怪獣不在は、『80』の船出に暗雲をもたらした。その後、メカギラス、アブドラールス、サラマンドラ、ザルドンなどが輩出することをみれば、最初の失速がいかにも惜しまれる。

結局1クールで教師の設定が消えたあとは、より自由な発想の物語が展開し、シリーズとしては健闘してくれた。怪獣の面から言えば、『80』の功績は「希望の復活」という点にある。『レオ』までの悲惨を窮めた着ぐるみ状況は、もはやテレビではまともな怪獣は拝めまいという、絶望的な気分すら視聴者に与えていた。

こと着ぐるみに関して、『80』の怪獣群は素晴らしい成果を残している。先に名をあげた4体のほか、メダン、ギマイラ、ガモス、アルゴンなどは黄金時代のラインナップに迫る造型だ。若狭新一氏らの若き造型家の名前が、ここに登場する。

ウルトラシリーズはその歴史の中で、ついに自らが育て培った新たな才能が、本格的に実作に参加するという喜ばしい時代を迎えつつあった。だが、ドラマとデザインの新たな才能が登場するまでには、なお10数年の時を経なければならなかった。 (つづく)


★★★★★★★★★★★★
若狭新一(わかさしんいち)氏について
日本映画の怪獣造形専門の彫刻家、特殊メイク師、モンスターズ代表取締役。東京都出身。少年時代に仮面ライダーに憧れ、登場する怪人の造形に興味を抱く。

エキスプロで美術や特殊造形を担当していた三上陸男(みかみみちお)氏が立ち上げた会社コスモプロダクションに高校卒業後に入社し、その後20歳の誕生日に、同僚と共にモンスターズを旗揚げする。『ウルトラマン80』などで若手として頭角を現していく。

1984年頃より特殊メイクを中心に活躍し、のちに怪獣造形にも復帰する。映画業界初の「造型プロデューサー」としてクレジットされた。



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