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実相寺監督と懐かしのオープンセット [実相寺監督が語るウルトラ2]

崎市北部は、けっこうロケの多かった地域であり、とりわけ小田急線の「西生田」駅、現在の「読売ランド前」駅の山の手側に、東宝の“生田オープン”というのがあった。かなり広大で、いろいろな場面を消化できた思い出深い場所である。

その生田オープンが懐かしくて、最近訪れてみたのだが、それは蜃気楼のように消えていて、まったく往時の面影はなかった。開発によって地形が全く変わってしまい、入口がどのあたりだったか見当もつかない。女子大を通り越して、府中街道の方へしばらく行った左手に生田オープンはあったのだが、今や住宅の波である。

『故郷は地球』でジャミラの切り返し、『狙われた街』のダンプの暴走、そのほかにも生田オープンで撮影した作品はかなり多い。川崎市多摩区菅馬場2、3、4丁目と、菅北浦4、5丁目一帯に及んでいたのではないかと思うが、確かめられない。

とにかく広大な地域だったが、「跡形もない」とはこのことで、新宿の副都心の場合など市街地のせいか、それほどの感傷は湧かないが、生田では訪れてみてその変わり様に、何か茫然としてしまった。

山、森林、崖、荒野、田園といった幅広いシーンが撮影できたオープンは、ウルトラにとっても絶好のステージだった。火薬をどうしかけようが、勝手放題だった。円谷プロでは、そこにセットを組むということは少なく、おもに怪獣の追いかけや宇宙人との戦いなどに使用していた。

実相寺監督が『ウルトラマン』で、そのオープンをもっとも多用した作品は、ジャミラの回だ。ジャミラを追う科特隊の連中が山の中を歩くシーンをはじめとして、逃げ惑う村人たちのカットの積み重ね、ラストで十字架を建て、ジャミラに祈りをささげるシーンなど、かなりのシーンを消化している。

あの森も、露と消えてしまった訳だ。ジャミラが出現して、避難しかかった子供が伝書鳩を取りに帰る農家は、生田からさほど遠くない柿生で撮影をした。あの頃は、柿生や鶴川へ行けば、茅葺き農家の撮影などは簡単にできたのだが、それも今は夢である。

茅葺きの家といえば、生田緑地公園の中にある”川崎市立日本民家園“は、市内・県内の古民家を軸にして、野外で復元展示をしている、とても楽しい場所である。当時、飯島敏宏監督の住まいが、その民家園にほど近い所にあった。うららかな日和に恵まれた折には、ふたりで散歩がてら民家園へ足を運び、民家の縁側に日向ぼっこよろしく座っては、ウルトラやテレビ映画の話をしたものである。

あの頃は入場料も取られず、訪れる人もあまりなく、移築された農家の軒先に寝そべっては、怪獣の名前を考えたりしたものだ。昭和41年頃のことである。(注;開園は昭和42年とあるので、正式オープンの前だったのかもしれない)

ジャミラの撮影にはここを使おうと勝手に決めていたのだが、許可にならなかった。そりゃあそうだ。ライトは何台も持ち込むし、スモークは焚くし、火薬ありだし、いくらのんびりしていた時代でも、不許可の決裁は当たり前であろう。情景ねらい程度だったら、よかったのだろうか。

ジャミラの回では、見えない宇宙船による事故のシーンが発端となるのだが、車が夜道で遭遇する事故の件は、生田オープンの山を隔てた反対側の、読売ランドへ通じる坂道で撮影した。そのあたりの環境は、あまり変わっていない。

この事故に遭う車は、監督自前のプリンス・スカイライン1500で、監督自ら運転をしての出演であった。付け加えて書くと、このとき調子に乗って車を溝に脱輪させてしまい、余計なことをしてくれる監督だと、制作部ににらまれてしまったそうである。(おわり)


★★★★★★★★★★★★
ジャミラが森林の中に身を潜めているシーンや口から吐く火炎で茅葺き農家を焼き払う特撮シーンが思い出されるが、それにつながる本編シーンはすべて、このオープンセットで撮ったわけである。本文に書かなかったが、ここは東宝の持ち物なので、東宝映画で使ったオープンロケの残骸が残っていたりもしていたようだ。ゴジラ映画などで地元民の避難シーンがあるが、そのようなシーンもここでみな撮影されたものなのだろう。

CG合成が全盛の現代なら、避難シーンだけスタジオで撮影し、背景映像を別に撮り、二つをコンピュータ合成処理して、避難シーンを作ることも可能だろう。こんなコンピュータ合成作業の方が修整などで融通が利く分何かといいかもしれないが、それでいいのだろうか。演じる側の技術は廃れていくことはないだろうか。

映画のカメラは自分を映してくれているのがよくわかる、とモロボシ・ダン役の森次晃司氏は、テレビカメラとの違いをそう話していた。それが、映画の気持ち良さだとも言った。失敗が許されない一発勝負だから、演者も命を賭けて演じるのではないのか。コンピュータで簡単に直しが利くような映像で良いはずがない。それは映像というメディアの荒廃につながるような気がする。



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