帰ってきたウルトラマン(9) ~座談会;振り返ってみたウルトラマン/ムルチとメイツ星人の巻 [新マン座談会・1]
ウルトラマンのスーツアクター・きくち英一氏が、司会の某映画監督とふたりでビデオを見て、当時の記憶を思い出しながら各話のエピソードを語るシリーズ。第五弾は巨大魚怪獣ムルチとメイツ星人が登場する第33話『怪獣使いと少年』です。
◆河原で、毎日穴掘りをしているひとりの少年がいた。何が目的なのか、雨の日も風の日も休まずに穴を掘っている。いつしかその少年が宇宙人であるという噂が立ち、街の人々は恐れるようになった。ついにある日、町中の人々が彼を排除するために集団で襲い掛かろうとすると、彼の保護者を名乗る老人が廃屋の中から現れた。が実は・・・
脚本;上原正三
監督;東條昭平
特殊技術;大木淳
★★★★★★★★★★★★
聞き手;
「これは上原正三脚本、東條昭平監督作品の問題作です。ウルトラマンのコンセプトを超えている」
《ボロボロの学ランを着た学生が登場》
きくち氏;
「こんな学生、この時代にはいないよね」
聞き手;
「東條さんの思い入れのようです。時代考証より、イメージ優先だったんでしょうね」
《みんなで少年を肩まで土に埋めて、頭から泥水をかけるシーン》
聞き手;
「どんな感じで見てました?当時」
きくち氏;
「割と普通にね。ドラマをみるよりは、ウルトラマンが出てからの3分間が俺の命って感じが強いから、それで頭がいっぱい。それに現場にいたわけではないし」
《とばっちりを恐れて、商店街の誰も物を売ってくれない。肩を落として帰る少年に、パン屋の娘だけが普通に振る舞ってくれる》
聞き手;
「ここは小田急線の祖師谷商店街。このシーンが名作と言われる所以なんです。ここが人間に希望を持たせてくれる。この娘さんに憧れたヤツが多かったんですよ」
《少年を殺そうと、商店街の人間や警官などが迫ってくるシーン》
きくち氏;
「みんな、スゴイ恰好してる。まるで終戦直後だね」
聞き手;
「この作品には強迫観念のある集団の心理的弱さや怖さが、描かれていますね。いくらウルトラマンが怪獣を倒すのが使命とは言っても、守るべき人間がこれではどうしようもないでしょう・・・」
《人々の愚行に怒った郷秀樹は、『勝手なことをいうな』と、怒りを露わにするシーン》
聞き手;
「MATの隊長が、急に托鉢僧となって登場。この回だけ、郷秀樹がウルトラマンであることを知っているかのような、なかなかシュールな演出だ」
《隊長の言葉に考えを変えて、ウルトラマンに変身しムルチに立ち向かうシーン》
きくち氏;
「この回はまだ誰もやったことの無いことをやろうと思って、1カット長回しに挑戦したんです。雨の中でね、スタジオのギリギリの所まで利用してね。ウルトラマンにもセブンにも無かったアクションを1カットで撮ろうと持ちかけたら、監督もスタッフもノッてくれてね。
スタジオ一杯にレールを敷いて、横移動。爆発するので、(ウルトラマン・ムルチの)スーツをふたりとも着ないで何度もテストを繰り返して、雨を降らしていよいよ本番。一発でOKでした。終わった瞬間、スタッフから拍手が出ましてね。早く帰れるから(笑)」
****つづいて、監督の東條昭平氏の監督秘話をどうぞ****
『怪獣使いと少年』では、僕の初監督作品ということもあって、上原正三さんが民族問題やその他いろんなことを考えて脚本を書いていたんですが、実はそのほかにも、『地球には四季がある、でも宇宙には四季が無い』っていうテーマもあるんです。
宇宙には四季が無いはずなので、宇宙人が地球に来るとしたら、夏は良いかもしれないけど、秋がくればその変化についていけずに身体が朽ち果ててしまうと思うんです。だからあの子は、早くおじさんを助けなきゃダメなんですよ。
実は初号のフィルムは、もっと過激な内容でした。TBSが商品として受け取ることができないということで、リテイクしたんです。道を歩く少年に、みんなで石をぶつけるというシーンがあったのをカットしました。
それから最後に警官がおじさんを撃つシーンがありますが、あれは街の人が竹やりでもって刺すはずだったんです。それが通らなかったのは、TBSの橋本プロデューサーが、子供番組である以上は血を見せてはいけないということだそうです。
それから、少年とパン屋の娘の交流のシーンを新たに付け加えました。結果的には、あれが唯一の救いになりましたね。隊長の根上淳さんが托鉢僧姿なのも、脚本には無くて、現場の判断でやったことです。
帰ってきたウルトラマンでは、僕は助監督として多く現場にいましたが、あの頃は助監督でも、監督の言われるままではなく、いろいろと工夫しながらやってたんです。だからこそ面白かった。朝いくら早くても、夜いくら遅くてもよかった。
夜おそくなって電車に乗ったら、寝過ごして遠くまで行ってしまって、翌朝折り返してそのまま会社へ行ったこともありました。そんな滅茶苦茶な生活しててもとにかく面白かったから、懸命にやってたんですよ。
★★★★★★★★★★★★
帰ってきたウルトラマンをよくご存じの方なら、『11月の傑作群』という言葉を知っていると思う。いわゆる、71年11月中に放送された4作品のことを指す。それぞれが特別な評価を受けている作品とでもいえばいいだろう。その中でもこの『怪獣使いと少年』は、映像表現で人気があると同時に、色々と物議を醸す作品となった。
穴を掘る少年に向かって、執拗に陰湿なイジメのたぐいの事をするシーンがある。ホントによく放送できたものだと思う。『(イジメのような)やってはいけないこと』を映像にするには工夫がいるし、観るものに不快な思いをさせないようにしてほしいものだ。表現の自由とは、何をしてもいい事ではないのだから。難しいものだと思う。
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◆河原で、毎日穴掘りをしているひとりの少年がいた。何が目的なのか、雨の日も風の日も休まずに穴を掘っている。いつしかその少年が宇宙人であるという噂が立ち、街の人々は恐れるようになった。ついにある日、町中の人々が彼を排除するために集団で襲い掛かろうとすると、彼の保護者を名乗る老人が廃屋の中から現れた。が実は・・・
脚本;上原正三
監督;東條昭平
特殊技術;大木淳
★★★★★★★★★★★★
聞き手;
「これは上原正三脚本、東條昭平監督作品の問題作です。ウルトラマンのコンセプトを超えている」
《ボロボロの学ランを着た学生が登場》
きくち氏;
「こんな学生、この時代にはいないよね」
聞き手;
「東條さんの思い入れのようです。時代考証より、イメージ優先だったんでしょうね」
《みんなで少年を肩まで土に埋めて、頭から泥水をかけるシーン》
聞き手;
「どんな感じで見てました?当時」
きくち氏;
「割と普通にね。ドラマをみるよりは、ウルトラマンが出てからの3分間が俺の命って感じが強いから、それで頭がいっぱい。それに現場にいたわけではないし」
《とばっちりを恐れて、商店街の誰も物を売ってくれない。肩を落として帰る少年に、パン屋の娘だけが普通に振る舞ってくれる》
聞き手;
「ここは小田急線の祖師谷商店街。このシーンが名作と言われる所以なんです。ここが人間に希望を持たせてくれる。この娘さんに憧れたヤツが多かったんですよ」
《少年を殺そうと、商店街の人間や警官などが迫ってくるシーン》
きくち氏;
「みんな、スゴイ恰好してる。まるで終戦直後だね」
聞き手;
「この作品には強迫観念のある集団の心理的弱さや怖さが、描かれていますね。いくらウルトラマンが怪獣を倒すのが使命とは言っても、守るべき人間がこれではどうしようもないでしょう・・・」
《人々の愚行に怒った郷秀樹は、『勝手なことをいうな』と、怒りを露わにするシーン》
聞き手;
「MATの隊長が、急に托鉢僧となって登場。この回だけ、郷秀樹がウルトラマンであることを知っているかのような、なかなかシュールな演出だ」
《隊長の言葉に考えを変えて、ウルトラマンに変身しムルチに立ち向かうシーン》
きくち氏;
「この回はまだ誰もやったことの無いことをやろうと思って、1カット長回しに挑戦したんです。雨の中でね、スタジオのギリギリの所まで利用してね。ウルトラマンにもセブンにも無かったアクションを1カットで撮ろうと持ちかけたら、監督もスタッフもノッてくれてね。
スタジオ一杯にレールを敷いて、横移動。爆発するので、(ウルトラマン・ムルチの)スーツをふたりとも着ないで何度もテストを繰り返して、雨を降らしていよいよ本番。一発でOKでした。終わった瞬間、スタッフから拍手が出ましてね。早く帰れるから(笑)」
****つづいて、監督の東條昭平氏の監督秘話をどうぞ****
『怪獣使いと少年』では、僕の初監督作品ということもあって、上原正三さんが民族問題やその他いろんなことを考えて脚本を書いていたんですが、実はそのほかにも、『地球には四季がある、でも宇宙には四季が無い』っていうテーマもあるんです。
宇宙には四季が無いはずなので、宇宙人が地球に来るとしたら、夏は良いかもしれないけど、秋がくればその変化についていけずに身体が朽ち果ててしまうと思うんです。だからあの子は、早くおじさんを助けなきゃダメなんですよ。
実は初号のフィルムは、もっと過激な内容でした。TBSが商品として受け取ることができないということで、リテイクしたんです。道を歩く少年に、みんなで石をぶつけるというシーンがあったのをカットしました。
それから最後に警官がおじさんを撃つシーンがありますが、あれは街の人が竹やりでもって刺すはずだったんです。それが通らなかったのは、TBSの橋本プロデューサーが、子供番組である以上は血を見せてはいけないということだそうです。
それから、少年とパン屋の娘の交流のシーンを新たに付け加えました。結果的には、あれが唯一の救いになりましたね。隊長の根上淳さんが托鉢僧姿なのも、脚本には無くて、現場の判断でやったことです。
帰ってきたウルトラマンでは、僕は助監督として多く現場にいましたが、あの頃は助監督でも、監督の言われるままではなく、いろいろと工夫しながらやってたんです。だからこそ面白かった。朝いくら早くても、夜いくら遅くてもよかった。
夜おそくなって電車に乗ったら、寝過ごして遠くまで行ってしまって、翌朝折り返してそのまま会社へ行ったこともありました。そんな滅茶苦茶な生活しててもとにかく面白かったから、懸命にやってたんですよ。
★★★★★★★★★★★★
帰ってきたウルトラマンをよくご存じの方なら、『11月の傑作群』という言葉を知っていると思う。いわゆる、71年11月中に放送された4作品のことを指す。それぞれが特別な評価を受けている作品とでもいえばいいだろう。その中でもこの『怪獣使いと少年』は、映像表現で人気があると同時に、色々と物議を醸す作品となった。
穴を掘る少年に向かって、執拗に陰湿なイジメのたぐいの事をするシーンがある。ホントによく放送できたものだと思う。『(イジメのような)やってはいけないこと』を映像にするには工夫がいるし、観るものに不快な思いをさせないようにしてほしいものだ。表現の自由とは、何をしてもいい事ではないのだから。難しいものだと思う。
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2014-12-24 19:16
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