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愛される怪獣とは ~形態学的怪獣論33 [怪獣論・怪獣学E]

ベムスターの顔面の立体化は、もはやこれ以外には無いと言えるくらい、考え抜かれたものだ。目を中心とした曲線の錯綜(複雑に入り組むこと)、大胆な平面で構成される頬部。間の抜けた感じを与えないのは、頭頂部からくちばしの先端までの直線が、一本筋の通った緊張感をもたらしているためだ。

凄みとユーモラスが同居する顔。なんという味わいの深さだろう。凛々しい顔面の造型の見事さは、「タロウ」の改造版と比較すれば一目瞭然だ。全身の抑え気味の配色と、ひび割れのようなウロコ模様のアンサンブルも決まっている。

下腹部を覆う剛毛も、相撲のまわしの下がりのようで、威風堂々としている。かつての黄金時代の名怪獣たちと十二分に比肩し得るベムスターという名優の出現によって、『新マン』は本当の意味で新シリーズとしてのスタートを切ったのではないだろうか。

7月最後に予定されていた放映日当日、岩手県雫石上空での自衛隊機と民間機との衝突事故によってニュース特番が入り、放映が翌週に延期になったことも含め、忘れがたい作品である。

ベムスターは偶然の所産ではない。そのような怪獣を送り出したいという、熊谷氏の情熱の結実に他ならない。熊谷氏の哲学によれば、人気怪獣の三大条件とは、

①子供達が遊びやすく覚えやすいこと(シンプル)
②特徴ある彩色と武器を持っていること(シンボリック)
③登場と結末はドラマチックであること

これぞまさに、ウルトラ怪獣の真髄ではないか!あまたの群星を圧し、不変の愛情を持って今日まで支持され続けたウルトラ怪獣の伝統は、ここに脈々と生き続けていたのである。

たとえばマグネドン。小山のごとき黒い体躯に、鮮烈な赤い4対のツノ。一瞥してすぐに絵が描けそうなほどシンプルで、わかりやすい姿だ。にもかかわらず十分に個性的で、しかも美しい。派手さは無いが、記憶されるべき名怪獣のひとつである。

造型もデザインの意匠をよく汲み、全身の大胆な把握と細部の繊細な処理がうまくマッチしている。何と言っても、頭部のツノの彎曲が絶品だ。前方に向かう立ちあがりの角度といい、ツノ自体のカーブといい、高山造型に勝るとも劣らぬほどの全ウルトラ怪獣屈指の出来映えである。

小さくまとめられた顔が、また表情豊かで実によい。怪獣が強さだけを競わされる前の、幸福な時代の一例と言えよう。なお、当初は青と赤のツートンだったそうだ。そちらも見てみたい気がする。

四脚怪獣でいえば、キングストロンも中期を代表する人気怪獣である。熊谷氏によれば、「すべてシンプルに、1本のツノと大きな目、2本の回転する背中のツノと金色の全身の重量感」がポイントである。

アーストロンから引き継がれた頭部の1本角は、四脚怪獣という設定に合わせて地面と平行に折れ曲がっている。背中のツノは、後方にある時はどこかおとなしく、回転して前方を向くとにわかに攻撃的なイメージへと変貌する。その変わり身が鮮やかだ。

手榴弾のような甲羅といい、サーベルのように見える尾のツノといい、極めて怪獣らしい怪獣と言える。 (つづく)


★★★★★★★★★★★★
以前に熊谷健氏を扱った記事で、本文に書かれた3条件は披露している。熊谷氏が怪獣デザインに参加されたあたりから、新マンでは特徴ある怪獣が産出されている。成田亨氏にも怪獣を描くための3条件はあったが、まだ怪獣というジャンルが確立されていない草創期だったこともあり、漠然とした内容であった。

熊谷氏は、先達が確立して来た怪獣というジャンルを分析し、より具体的な方向性を示すことにより、子供達に人気が出るような作品が描けるようになったということだろう。



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タグ:熊谷健 怪獣
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