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高山怪獣第一号「ペギラ」の構造 ~形態学的怪獣論20 [怪獣論・怪獣学C]

ゴメスは、原型を徹底して隠そうとする(キバ、ヒゲ、ツノ、ウロコなどを付けることで、ゴジラであったことを隠そうとする)かのようなデザインだった。これに対してペギラは、何の装飾もない、ただのつるっぱげである。

口元と下あごの先に申し訳程度に生えているちぢれたヒゲを除けば、ウロコも甲羅も剛毛もトゲもない。そこには、ただむき出しの構造が投げ出されているだけだ。「構造」―実はこれこそが、ペギラの偉大さを物語るキーワードである。

ゴメスは、さまざまな装飾に埋没して顔面の構造が把握しにくい。ゴメスに限らず、怪獣デザインは複雑になればなるほどその基本的構造が不明になり、アイデンティティは失われる傾向にある。言い換えると、構造が強烈なアイデンティティを持つということは、そのデザインがいかに独創的で傑出しているかの証明なのである。

ペギラの構造を、詳しく見ていくことにする。まず両目は正面に平行に位置している。脊椎動物のうち、魚類から爬虫類までは目は体側に付いているから、これは哺乳類の特徴、それもアザラシより霊長類に近い。そのため顔全体の印象は、恐竜よりも人面を思わせる。

これがシーンによっては、鬼面のように見える秘密である。また、この眠たげな眼(まなこ)が凄い。目の半分までがまぶたで隠れている。このまぶたの上げ下げによる表情の変化は実に劇的だ。ペギラの魅力を決定づけていると言ってもいい。

これほどまぶたを効果的に使った怪獣は、他に見当たらないだろう。思えば怪獣とは本来、人智を拒絶する存在、我々にとっては理解不能の存在である。その底知れぬ恐怖を、この“まなこ”は鮮烈に呼び覚ます。人類の矮小さを、まざまざと思い起こさせてくれる。

『ペギラが来た』の監督の野長瀬三摩地氏はあるインタビューで、「わたしの『ゴジラ』をやりたかった」という趣旨のコメントを出しておられたが、その監督の思いは、まさしく初代ゴジラに通じるペギラのまなざしとして、表現されている。

さらにこの眼は遠景において、例えば吹雪の中で咆哮するペギラのロングショットなどの際、眼球の黒目が消えて、ふたつの光る窓のように見える。これがペギラの怪物性を一層強調させるのである。通常の生物ではない、異なる生命体の印象を強くアピールする。

ペギラのこの眼が、すでに高山氏の「独創」といえよう。高山造型における「眼」の重要性が窺えるものとしてラゴンの眼も同様であるし、“まぶた“にこだわるとガラモンも然りである。

高山氏は、ペギラの目の周囲から鼻にかけての骨の隆起の様子など、デザイン画には一切描かれていないような部分も、すべて造型家の裁量で作っておられる。二次元のデザイン画を三次元に立体構築する際、高山氏は空白の部分を決してそのままにはしないのである。

ともすれば、曖昧なまま放置しても不思議ではない部分。高山氏はこのような空白部から断じて逃げずに、そこに意味のある「構造」を見出したのである。自然の造型物への注意深い観察と、それによって得られた深い洞察。

その結果として付与されたこの顔面の複雑な凹凸は、『実在の生物ならばかくあるべきだ』という、造型家のゆるぎない信念が感じられる。そしてそれは、鳥でも獣でもない新生物ペギラに、リアリティを与える力になっているのである。 (つづく)

★★★★★★★★★★★★
円谷プロが、「ウルトラの世界」を成功に導いた理由はいろいろあったと思うが、他社も追随していった中にあって、初期ウルトラ三部作(Q・マン・セブン)が特に光って見えるのには、やはりデザイナー成田亨と造型家高山良策が、カレーでいえば具材の中で溶けて見えないけれども、香辛料のようにピリッと効いていることは間違いないと思う。特に造型の良し悪しは、物語の質にも関わっていくと思うからである。



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