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ペギラによってウルトラシリーズにデビューした芸術家 ~形態学的怪獣論19 [怪獣論・怪獣学C]

昭和40年。『ウルトラQ』の製作が半ばを過ぎた頃、美術部門強化のため招かれた成田亨氏が最初に手掛けたのは、井上泰幸氏デザインのペギラの引継ぎ作業だった。大先輩に敬意を表してか、このとき成田氏が改良したのは、板状の両翼を羽根に変えた程度に過ぎない。

ところで、この井上デザインのペギラを冷静に観察すると、極めて特異である。ペンギンは鳥であるが、井上デザインは、翼以外はすべて動物の特徴を具えており、特に顔は哺乳類(トラかヒョウ)を想起させるもので、断じて鳥ではない。

しかも翼にツメが生えているのは翼竜の特徴であり、これはラドンを思わせる。さらに全身に見られるまだら状模様は、どんな意味があるのだろう。成田デザインはこれらの点にあまり捕らわれることなく、退化したペンギンの翼に羽毛を加え、顔はアザラシのように処理し直した。

成田ペギラは、いわば羽根の生えた直立のゴマフアザラシである。しかも、井上デザインで顔の両側に開く様に生えていた2本のキバは、成田デザインになって、はっきりと前方に向かって湾曲して生えた。これはセイウチとは逆向き、強いて言えばゾウのキバに似ている。

ペギラはこの時点で、極めて独創的な怪奇生物になっていたのだ。だが、ペギラが名怪獣になり得たのは、その造型である。成田氏とともに、ペギラによってウルトラシリーズにデビューしたもう一人の芸術家・高山良策氏の存在である。

前衛画家の高山氏は『ウルトラQ』以前、画業と並行して、大映などで様々な特殊美術を手掛けており、東映時代に知り合った成田氏から、直接『ウルトラQ』怪獣の着ぐるみの製作を依頼される。ここに、怪獣デザイン・怪獣造型史上、最大最強のコンビが誕生した。この時高山氏48歳。

ウルトラQ製作チームの中では、最年長に近いベテランであった。その数々の造型には、熟練した芸術家の、真実を見据える透徹したまなざしが、遺憾なく発揮されている。そして記念すべき第一号怪獣ペギラこそは、高山造型の頂点ともいうべき最高傑作のひとつである。

ペギラ最大の魅力は、その顔である。正面から見れば猫のようでもあり、横から見れば犬のようでもあり、人を食ったような寝ぼけた表情が、一転して狂気の鬼神のごとく変貌する。実はこの顔は、井上デザインの顔とも成田デザインの顔とも、全く違う。

いかなる動物の顔でもなく、しかし紛れもなく、「動物」の存在感を誇示している。その驚くべき豊かな表情によって、「生物」としての実在感を強烈に訴えかけてくる。ペギラと同様に、一本角・2本キバの2足直立型怪獣のゴメスの構成要素と比較して検証してみる。 (つづく)

★★★★★★★★★★★★
もはや高山良策氏も成田亨氏も、他界されてしまっている。もしご存命であれば、聞いてみたいこと、インタビューしたいことは山のようにある。特撮番組の分野でスポットライトが当たっているのは、常に本編の出演者たちや怪獣であり、影で支えるデザイナーや造型師は、当たってはいてもそれほど注目はされなかった。

同じ歌を、Aさんが歌った時はヒットしなかったのに、時を隔ててBさんが歌ったら大ヒットしたという話がある。時代が何を求めているか、何にスポットライトが当たるかは、その時次第。運不運が付いて回るのだろう。両巨匠がご存命のときに、ライトが当たっていたらと、思う。



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