SSブログ

ファッション雑誌からヒントを得ていた池谷怪獣 ~形態学的怪獣論17 [怪獣論・怪獣学C]

成田氏からの突然のバトンタッチ。それまでの美術の仕事に加え、怪獣デザインの仕事も重なり、成田さんの大変さが改めてよく解りましたと池谷氏は言う。多忙を極める中で、毎週少なくとも1体の怪獣を提示し続けてゆくためには、発想のヒントになる独自の美術観や哲学、あるいはアイデアの引き出しのようなものがあったのではないか。

だが池谷氏によれば、特にそのようなものは無く、常に現場でその都度描きあげていく作業の繰り返しであり、ひとつのデザインが終わると「ヒントの引き出し」が2~3増えているというような状況であったという。それゆえに、氏の怪獣デザインには池谷美術のエッセンスが素直に出ていると言えよう。

最初のデザインとなった宇宙細菌ダリー。血管内に棲みついても違和感の無いピンクという体色が斬新だが、昆虫モチーフでありながら直立した人間の体形を維持している。このことを造型の高山良策氏から指摘され、以来いかにして人間の体形を隠すかに腐心したそうである。画面ではほとんど這っていたため、人間の体形は印象に残らない。

リッガーとアギラはともに恐竜モチーフで、どちらも際立った装飾はないが、『怪獣幻図鑑/池谷仙克画集』で拝見すると、驚くほど繊細で美しい青緑色の彩色が施されている。池谷デザインの本領発揮といえよう。

ペガ星人は、鮮やかなブルーの体毛以外をすべて黒一色で引き締めたデザインである。このフワフワとした体毛とブルーという発想がどこから来たのか長く疑問だったが、ファッション雑誌からヒントを得たと池谷氏は言う。最新のモードの中には実用性とかけ離れた、純粋に形態的・素材的な面白さを追求したものが多々ある。1960年代の終わりに、池谷氏はすでに怪獣デザインの中にファッション感覚を導入しておられたわけで、見事なセンスというほかはない。

発泡怪獣ダンカンは、強烈なオリジナリティを感じさせる、池谷デザインの初期の代表作である。準備稿の顔などはのちのタッコングに通じるものがあり、全身を統一パーツで覆うというパターンも『新マン』での展開を十分に予感させる。

なによりも、人間の体形を隠すために、背中を丸めた独特のシルエットが魅力だ。転がるための必然的な形態でもあったろうが、そればかりではない。『セブン』怪獣の中で屈指の傑作ガッツ星人もまた、猫背なのである。

池谷氏によれば、ここにもご自身の怪獣への思いが出たのであろうと言う。すなわち、いささか遠慮がちな姿なのだと(詳細は前回参照)。最強であるものが威圧的な形態を有するとは限らない。むしろガッツ星人は、自らは格闘に参加するわけでは無く、ただ両腕を震わせて立ち尽くしているだけだ。その姿がより一層不気味さを醸し、最強のイメージに説得力を与えている。

「鳥の顔」と「巨大な脳」という有機的な部分と体を覆う直線的な幾何学模様が、極めて自然に融合している。後頭部には、当時流行のピーコック模様を配するというセンス。高山氏の造型はこのデザインを完全に把握したうえで、頭部から腰へと流れるような見事なラインを作った。

肩から上腕部へかけての強調された膨らみと大腿部の曲線が、巨大な頭部の彎曲に呼応して絶妙のバランスを形成している。成田氏のカラーを極端に壊さぬよう留意しながら、独自の作風を模索してきた池谷デザインにとって、ガッツ星人はひとつの頂点を示す作品といえる。   (つづく)


★★★★★★★★★★★★
記事の中に出てきた『怪獣幻図鑑/池谷仙克画集』を見たいなぁと思う。残念ながらすでに絶版で販売されていない。成田亨氏の作品画集は復刻されて購入したが、なかなか素晴らしい。「昭和のウルトラ」の基礎がすべてここに詰まっているわけで、茨城県水戸で開かれていた成田亨展にも行ってきたが、画集では見られないゴモラやウルトラマンなどのマスクの展示物には、感激してしまった。池谷氏のデザイン展を、ぜひやってほしいものである。



スポンサーリンク



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:テレビ

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。