正統派怪獣とは ~形態学的怪獣論2 [怪獣論・怪獣学B]
前回はネロンガのユニークさを語ったが、造型の原型になったのは、東宝怪獣のバラゴンだ。この「バラゴン」の背中の装飾はよほど優れていたのか、「ネロンガ」はさらに「マグラ」、そして「ガボラ」へと改造を重ねていった。
1話完結の怪獣番組において、1クール(1クールは3か月分、13週分を指す)の中で3回同じ着ぐるみを改造して使用した例も、珍しいのではないだろうか。むろん、それぞれが単なる改造ではなく、立派なオリジナリティを持つに至っているのは見事なものである。
印象としてはあまり強くない「マグラ」だが、なかなかの力作である。全身が真っ黒という点が斬新だ。成田亨氏のデザインでは、ハリネズミのごとく黒いトゲの集合体である。レッドキングとの兼ね合いもあったのか、尾の部分には共通項が見られる。
どこまでネロンガを改造する予定だったのか詳細は分からないが、ネロンガの着ぐるみをすっぽりと包んで作ったようである。顔の辺りにネロンガの雰囲気を残しながら背中の装飾は隠れ、剣竜のごときヒレとなっている。ツノもツメもキバまでも黒いという徹底ぶり。
雑誌のグラビアなどで白いレッドキングと向かいあうと、好対照を成していた。ここまで改造したのなら、もう少し活躍の場を与えてもよかったのにと、惜しい気がする。
ガボラの場合は、はっきりと予算を抑えるための改造だったようだ。ガボラのデザインを見た金城哲夫氏が「成チャンは天才だ」と叫んだというエピソードは、芸術家としてのセンスを絶賛しただけでは無いというニュアンス(予算を抑えるセンスも抜群だ)がおかしみを誘う。
鳥のくちばしとも花弁とも見えるヒレの中から顔が現れるという発想は、とても独創的で真似が出来ない。閉じている時は細長い骸骨の化石のようにも見える。開いたときには襟のようにも見える。いずれにしても摩訶不思議な発想で、まさに「天才」の名に恥じない。
このヒレに硬い質感を与えて、ウルトラマンとの決戦シーンでも形態を保ったままに仕上げた造型家のセンスも、また見事であった。付いていたツノを切り落とした鼻の処理も自然で、ライオンの鼻を思わせる出来映えだ。
ネロンガ、マグラ、ガボラ、そしてバルタン星人の造型は、いずれも佐々木明氏だ。成田亨氏の武蔵野美大の彫刻の後輩で、早くから外注の造型家であったという。
ウルトラ怪獣のイメージを決定づけたのは、もちろん高山良策氏の造型技術であるが、要所要所に現れるこの佐々木造型の怪獣たちも、最大級の評価を受けるべき傑作ばかりである。佐々木明氏は、ウルトラ怪獣の重要な部分を担った芸術家のひとりであることに間違いはない。
*造型家・佐々木明氏へのインタビューは、「初代ウルトラマンの思い出2」内にあります。http://ztonbaltan.blog.so-net.ne.jp/archive/c2306161636-4
ところで、怪獣の「正統」とは何だろうか。本来、怪獣に正統も異端もあるはずがない。異形の生物が「怪獣」と呼ばれるなら、そこに形態としての制約があるのは不自然であると言える。だが「怪獣」といえば、やはり『二脚恐竜型』こそが正統という暗黙の了解が存在するような気がする。
我が国最初の本格的怪獣であるゴジラのイメージが、いかに影響力が強いかという証明でもあろう。怪獣デザイナーは「代表作」を作ろうとするとき、必ずと言っていいほどゴジラを念頭に置き、そこにどこまでオリジナリティを付与するかという作業に移るものである。
歴代ウルトラシリーズの第一話の登場怪獣、そのほとんどが一角獣の形態(ゴメス、アーストロン、ゴルザ、マグマ大使のアロン等)である。日本初の本格的特撮テレビとなったウルトラQでは、企画当初は怪獣路線では無かった点を考慮しても、『二脚恐竜型』のシルエットを持つ怪獣はゴメスとペギラのみである。
ゴルゴス、パゴス、モングラーと思い出してみても、四脚恐竜型が多い。つまり、『二脚恐竜型』が怪獣の正統派と見なされるようになったのは、ウルトラマンという超人の出現以降なのである。それは『超人対怪獣の格闘』シーンという絵を作るのに、最も適していたからに他ならない。
ネロンガやゲスラのように立ち上がるものを除けば、完全に伏せたままの四つ足怪獣はスカイドンやガマクジラなど数頭で、ウルトラマンはこれらと引き起こすかまたがるという困難な闘い方を強いられる。そのためだろうか、『二脚恐竜型』に次いで多いのが『人間型』なのである。
ヒドラ、アントラー、ドラコ、キーラなどのように、『人間型』と『二脚恐竜型』の中間のようなデザイン的処理をされて、いずれも格闘しやすいスタイルに仕上がっている。 (つづく)
★★★★★★★★★★★★
形態学的怪獣論という、なかなか面白い学問(だと思っている筆者だが)に、興味が向いている。怪獣を適当にデザインしても、無意識のうちにヒーローと格闘しやすいようなデザインになっていくということだ。そういえば、子供の頃に怪獣図鑑を見ていて憶えているのだが、
「自分が考えた怪獣」の優秀作に当選した怪獣は、『目玉無き目とキバをむいた口が中央にあって、その周りにヒトデのように5本の足が付いていて、それを回転させながら進むという怪獣』で、ちょうど新マンに出てくるバリケーンの頭部だけを縦にしたような形態であった。
その怪獣を映像にしようとしたら、CGを使うほかないような感じである。人が入るという大前提が、実は怪獣デザインをする上での最大の難問になっている。
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1話完結の怪獣番組において、1クール(1クールは3か月分、13週分を指す)の中で3回同じ着ぐるみを改造して使用した例も、珍しいのではないだろうか。むろん、それぞれが単なる改造ではなく、立派なオリジナリティを持つに至っているのは見事なものである。
印象としてはあまり強くない「マグラ」だが、なかなかの力作である。全身が真っ黒という点が斬新だ。成田亨氏のデザインでは、ハリネズミのごとく黒いトゲの集合体である。レッドキングとの兼ね合いもあったのか、尾の部分には共通項が見られる。
どこまでネロンガを改造する予定だったのか詳細は分からないが、ネロンガの着ぐるみをすっぽりと包んで作ったようである。顔の辺りにネロンガの雰囲気を残しながら背中の装飾は隠れ、剣竜のごときヒレとなっている。ツノもツメもキバまでも黒いという徹底ぶり。
雑誌のグラビアなどで白いレッドキングと向かいあうと、好対照を成していた。ここまで改造したのなら、もう少し活躍の場を与えてもよかったのにと、惜しい気がする。
ガボラの場合は、はっきりと予算を抑えるための改造だったようだ。ガボラのデザインを見た金城哲夫氏が「成チャンは天才だ」と叫んだというエピソードは、芸術家としてのセンスを絶賛しただけでは無いというニュアンス(予算を抑えるセンスも抜群だ)がおかしみを誘う。
鳥のくちばしとも花弁とも見えるヒレの中から顔が現れるという発想は、とても独創的で真似が出来ない。閉じている時は細長い骸骨の化石のようにも見える。開いたときには襟のようにも見える。いずれにしても摩訶不思議な発想で、まさに「天才」の名に恥じない。
このヒレに硬い質感を与えて、ウルトラマンとの決戦シーンでも形態を保ったままに仕上げた造型家のセンスも、また見事であった。付いていたツノを切り落とした鼻の処理も自然で、ライオンの鼻を思わせる出来映えだ。
ネロンガ、マグラ、ガボラ、そしてバルタン星人の造型は、いずれも佐々木明氏だ。成田亨氏の武蔵野美大の彫刻の後輩で、早くから外注の造型家であったという。
ウルトラ怪獣のイメージを決定づけたのは、もちろん高山良策氏の造型技術であるが、要所要所に現れるこの佐々木造型の怪獣たちも、最大級の評価を受けるべき傑作ばかりである。佐々木明氏は、ウルトラ怪獣の重要な部分を担った芸術家のひとりであることに間違いはない。
*造型家・佐々木明氏へのインタビューは、「初代ウルトラマンの思い出2」内にあります。http://ztonbaltan.blog.so-net.ne.jp/archive/c2306161636-4
ところで、怪獣の「正統」とは何だろうか。本来、怪獣に正統も異端もあるはずがない。異形の生物が「怪獣」と呼ばれるなら、そこに形態としての制約があるのは不自然であると言える。だが「怪獣」といえば、やはり『二脚恐竜型』こそが正統という暗黙の了解が存在するような気がする。
我が国最初の本格的怪獣であるゴジラのイメージが、いかに影響力が強いかという証明でもあろう。怪獣デザイナーは「代表作」を作ろうとするとき、必ずと言っていいほどゴジラを念頭に置き、そこにどこまでオリジナリティを付与するかという作業に移るものである。
歴代ウルトラシリーズの第一話の登場怪獣、そのほとんどが一角獣の形態(ゴメス、アーストロン、ゴルザ、マグマ大使のアロン等)である。日本初の本格的特撮テレビとなったウルトラQでは、企画当初は怪獣路線では無かった点を考慮しても、『二脚恐竜型』のシルエットを持つ怪獣はゴメスとペギラのみである。
ゴルゴス、パゴス、モングラーと思い出してみても、四脚恐竜型が多い。つまり、『二脚恐竜型』が怪獣の正統派と見なされるようになったのは、ウルトラマンという超人の出現以降なのである。それは『超人対怪獣の格闘』シーンという絵を作るのに、最も適していたからに他ならない。
ネロンガやゲスラのように立ち上がるものを除けば、完全に伏せたままの四つ足怪獣はスカイドンやガマクジラなど数頭で、ウルトラマンはこれらと引き起こすかまたがるという困難な闘い方を強いられる。そのためだろうか、『二脚恐竜型』に次いで多いのが『人間型』なのである。
ヒドラ、アントラー、ドラコ、キーラなどのように、『人間型』と『二脚恐竜型』の中間のようなデザイン的処理をされて、いずれも格闘しやすいスタイルに仕上がっている。 (つづく)
★★★★★★★★★★★★
形態学的怪獣論という、なかなか面白い学問(だと思っている筆者だが)に、興味が向いている。怪獣を適当にデザインしても、無意識のうちにヒーローと格闘しやすいようなデザインになっていくということだ。そういえば、子供の頃に怪獣図鑑を見ていて憶えているのだが、
「自分が考えた怪獣」の優秀作に当選した怪獣は、『目玉無き目とキバをむいた口が中央にあって、その周りにヒトデのように5本の足が付いていて、それを回転させながら進むという怪獣』で、ちょうど新マンに出てくるバリケーンの頭部だけを縦にしたような形態であった。
その怪獣を映像にしようとしたら、CGを使うほかないような感じである。人が入るという大前提が、実は怪獣デザインをする上での最大の難問になっている。
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2015-03-26 23:06
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